夜の蝶から昼の人間へ

以前私は北新地でホステスをしてました。いわゆる夜の蝶です。そこから昼の仕事、しかも人を騙す(といったら大げさ過ぎますが)仕事から、人を助ける医療職(作業療法士)に就きました。

私が何故こんなにも違う業種に移ったかというと、やはり将来の不安からです。夜の仕事は、若い子が腰掛けバイトをするには大変楽な仕事なのですが(言い方が悪いですが、嫌ならバックれられる)本職にするにはかなりキツイ仕事です。昼夜逆転して同伴アフターと外食ばかりお酒を飲み続けてお客様に気を遣い続けて神経をすり減らす毎日の中でふと思いました。

「年を取ったら私はどうなるのか。胸を張って人に言える仕事をしたい。日の当たる仕事がしたい」27才の時のことでした。

そこから専門学校に入り、全国模試で一桁台の順位を取る程猛勉強して国試に合格、作業療法士として精神病院に入職しました。

仕事面で、以前の職との1番の大きな違いはチームワークを必要とする所です。やはり病院ですので、看護師、医師、心理士、精神保健福祉士など他職種との連携がとても大事で欠かせないものの一つとなっています。ホステス時代の私はいわば個人事業主のようなもので、表面上は他のホステス達と仲良くしていても皆ライバルです。一匹狼のように過ごしていた私にとって、普通のコミュニケーションが難しく、最初はとても面倒で煩わしいものでした。

次に違いに面食らったのが、責任の重さが格段に違うということです。以前は、ちょっと体調が悪ければマネージャーに電話一本で休みまーすと言えたのに、それが出来ない。私じゃないと扱えない患者さんがいるし、病院の施設基準による人員配置で決められた人数の作業療法士が居なければならず、下手すれば違法になって監査で引っかかるのでおいそれとは休めません。

待遇面での違いは、やはり給与です。以前の職場の給料の半分以下になりました。しかし、厚生年金の加入があったのでそれが本当に有難かったし、年金への意識が芽生えて後の国保後納制度を利用するきっかけにもなりました。普通に働いておられる人には当たり前のことだと思いますが、私のような根無し草が正規雇用され、社会保険に加入出来るのは社会の一員になれたんだなと当時は嬉しく思いました。

転職前に予想していたことは、「以前の職とある意味同じ対人職だから、何とかやっていけるだろう。いや、むしろ向いているかも。」でした。しかし実際に向き合うのは自信に溢れた会長さんでも社長さんでもありません。ましてや色を求める人でもありません。目の前に居るのは、ただただ苦しく、辛く、悲しい思いをされている病気の患者さんなんです。人と違う自分に助けを求めてもがき苦しんでいる人達でした。単に話相手になればいいというわけではなく、精神分野は奥が深く専門的な知識や治療的対応が必要となり、一生勉強です。また、以前の職場ではお客様から酷いことをされる経験は滅多にありませんでした。あっても黒服さんがつまみ出してくれるからです。しかしここでは心の病気を持った方達が相手です。暴力沙汰を起こしたり、心をえぐられる様な酷い言葉をぶつけられたりもします。以前の職場よりもショックな事を沢山体験しました。同じ対人職でもうまくいくとは限らないのです。

ですが、私はそんな患者さん達を時に憎らしくも思いますが愛おしく感じています。一匹狼だった自分にこんな母性めいたものがあるとは当初は思いませんでした。

今の仕事は自分のズルさや弱さに患者さんを通して正面から向き合う機会が多いですが、それを自覚し乗り越えたら精神的に強くなれますし、人間的にも成長できます。結果として、全くの違う業種に転職した私ですが、夜の世界から抜け、この仕事に就けたことを本当によかったと思っています。