水商売からインフラ企業へ

私は大学時代からおよそ4年間ホステスとして京都で働いていました。大学の同期は4回生になるとみんな就職活動に精を出していましたが、私は「民間企業に勤めるよりも、ママのようにいつか自分の店を持ちたい」という夢があったため就職活動には参加しませんでした。大学卒業後も3年間は働いていたのですが、オーナーママの持病が悪化し店を畳まざるをえない状況になってしまいました。

ここで自分の身の振り方をもう一度考えなければならなくなりました。ママには「知り合いの店に口をきいてあげる」と言われましたが、この時の私は一度社会人として仕事をしてみたいと考えていました。店に遊びにくるお客様の多くはお仕事をしている社会人です。そうした人たちと違和感無くお話をするにはやはり自分も一度社会人として働いてみないことには話にならないと思いました。そのため、ママの誘いは一度お断りして、中途採用で民間企業に就職することに決めました。

その後、就職活動を経て、私は地元である千葉のガス会社に就職しました。就職にあたって、私には簿記のような実務に役立つ資格も知識もありませんでした。前職が水商売であることをふせて、そうした次第を説明すると私は営業課に配属されました。私が配属されたのは様々なプロパンガス会社や都市ガスが島の取り合いをする激戦区でした。

仕事面では前職とのギャップはあまりありませんでした。ホステスの頃と変わらず、ガスの営業もお客様に「選んでもらう」のが仕事です。むしろ、お客様に推すポイントがガスの方が明確である分売りこみやすいと思いました。先輩たちからは「門前払いで手ひどく断られることもあるから覚悟しておけよ」と脅されてきましたが、店では人間扱いされないことも多々あったのでそれを乗り越えた分には門前払いなんて屁でもありません。

仕事の面ではあまり苦労はありませんが、職場環境では前職とのギャップに苦しみました。ホステスの頃はチームプレイというよりも、個人戦が主でした。同僚とは利害関係の一致次第で手を組むこともあるけれど、基本的に過干渉はしないというのが暗黙のルールでした。けれども、新しい職場は体育会系の過干渉な男社会。女性営業は私だけ。女性の多い職場に慣れきってそれが心地よかったため、こうした環境の変化には堪えるものがありました。ただ、二日酔いをしなくて済む毎日はとても快適です。

転職前は昼間の仕事に対して「安定すれば人間穏やかに暮らせるのだろうな…」「出費も抑えられて貯金もはかどるんだろうな…」と漠然とした憧れがありました。しかし、それが幻想だったことを入社後実感させられました。

先輩や上司の言う「安定」がイマイチ自分には実感を持てなかったのです。周囲は「うちの会社は『安定』しているのがいい」と言います。けれど、その「安定」の先にある「家族」や「老後」が自分には無いため、その「安定」のありがたみが自分には実感できません。

また、貯金の面も期待外れでした。衣装代等の出費こそはホステス時代よりも減りましたが、給与そのものの減少や雑費の増加のために貯蓄できる額はホステス時代よりもかなり減ってしまいました。金銭的には長くは続けていけないなと思いました。

今回、不意のママの病気のために民間企業に就職することで、今まで経験できなかった様々なことを経験させてもらいました。店でもたくさんのサラリーマンの男性は見てきましたが、それはあくまで彼らの「店に見せる顔」であって「仕事の顔」は別にあります。そうした「仕事の顔」を同じ現場で働く人間として見ることが出来たのは、ホステスとして大きな肥になりました。

近々この会社を退職し、また京都に戻りお水に復職しようと思います。その際にはこの経験を自分の成長に活かしていきたいです。